研究メモ〜ボランティア活動とネオリベラリズムの共振について〜

ボランティア活動とネオリベラリズムの共振関係を再考する
Rethinking of the Problem of Complicity between Volunteer Activities and Neo-liberalism
仁平 典宏 Nihei Norihiro
東京大学 The University of Tokyo
キーワード ボランティア活動 ネオリベラリズム 共感困難な<他者> volunteers neo-liberalism "others"
社会学評論
Japanese sociological review
Vol.56, No.2(20050930) pp. 485-499
日本社会学ISSN:00215414

数々のネオリベラリズム批判についての論文を読んできたが、どうも生産的な議論がなされていないという気がしていたが、この論文はかなり示唆に富む生産的な論文である。

ボランティア論とボランティア批判の議論のすれ違い

■ボランティア論で示される価値的根拠=官僚制と専門職主義に彩られた福祉国家との対抗
→公的なサービスの画一性や非効率性、人びとのニーズを捉え切れない
→市民が参加していく必要がある

■ボランティア批判の価値的根拠=福祉国家以降のネオリベラリズムに対する批判
→ボランティア活動はネオリベラリズム的再編の作動条件を構成し、その活動の帰結もネオリベラリズムの帰結と合致する

ボランティア活動のネオリベラリズムの共振のポイント

[1]ボランティア活動はネオリベラリズム的再編の作動条件を構成する
(1)<社会>的諸制度が満たしてきたニーズの充足を可能とする代替的なシステムを創出すること
(2)市場化された前提となる自己統治可能かつ一定のモラルを保有した強い個人を創り出すこと
[2]ボランティア活動の帰結がネオリベラリズムの帰結と合致する
(1)再配分やリスクの集合的保障の機能が縮小することにより社会的格差の増大が生じ、同時に経済的貧困が個人の責任とされること
(2)社会不安の増大への対応として、セキュリティへの希求が生じること

[1](1)について:
ボランティアやNPOの活動が公的サービスの縮小によって財やサービスの不足を補うものとして活用され、同時にそれらの活動の活性化が、<社会>的諸制度解体の前提になる。
→ボランティア言説においてはミクロな対面レベルでの他者との連帯が強調される一方で、福祉国家が果たす、所得移転を通じた見知らぬ他者同士の<社会>的連帯の土台を切り崩す

[1](2)について:
ケア倫理の問題。ケア倫理は応答すべき/すべきでない声の線引きを特定の基準(例えば正義論的な基準)によって行わないが、すべての声に応答することは不可能なので、結果として既存の関係性が選択され、その外部が排除されうる。つまり、ケア倫理には、既存のネットワークを維持しようとする保守的な傾向がありうる。
→多様な選択が自明となった現在、上から確固とした行為のコードを注入するような道徳は困難。その代わり諸個人は、家族、職場、学校、余暇集団、近隣住民といったミクロの道徳圏と関係を取り結んでいくことを通して、自己の倫理を組み立てていく。つまり本来多様な倫理-政治が可能なはずの個人は、ミクロな道徳圏に関する自然で明白とされる語彙(「家族の大切さ」など)に依拠しつつ自己の倫理を組み立てていくことで統治へと回収されてしまう

[2](1)について:
参加の経済的格差の問題。社会参加可能な人は経済的なゆとりのある人に偏っている。
→市場能力の高い人が社会参加を経由して公的な決定の場に力を与えている。

[2](2)について:
多くのボランティア論で想定されるべき応答すべき他者とは、親密な他者のほか、ドミナントな道徳的基準によって共感可能とされるたしゃであり、実際ボランティアが盛んな領域は、本人の責任でなく偶有的に生じた困難に苦しんでいると認識される「弱者」としての他者支援の活動である。その一方で、自己責任(怠惰、やる気・モラルが無い、無謀など)の結果と表象され、時にわれわれに象徴的・直積的な危害を及ぼしうると表彰される<他者>に対しては、端的な排除で臨まれる。

ネオリベラリズムと共振しないボランティア活動は可能か(共振を回避するポイント)
[1](1)について:
福祉国家という枠組みを保持し活性化させる形で、ボランティアのプラス面を組み込んでいくにはどうすればいいかという問い。
→ボランティア活動が<社会>的諸制度の維持・強化に繋がる形で行われることによって共振を回避

[1](2)について:
アイデンティティを、外部に排除された、あるいは排除しきれず内部に矛盾として織り込まれた〈他者〉の声に向けて開く。
→「どの声に応えるべきか?」という正義論的な主題を導入しながら、ボランティア的実践を組み立てる。

[2](1)について:
参加の機会をすべての層に与えていく。
参加経験を社会的アドバンテージの増大につなげない(例えばボランティア活動経験を福祉受給の要件とする方向性は拒否される必要がある)。
→参加するボランティアが、参加できない/したくない人びとの声を――〈他者〉視される人びとの声すらも――充分な強度でで媒介できるか。〈他者〉を始めとする市民社会に現前しない人びととの連帯可能性が大きな賭金になる。

[2](2)について:
〈他者〉リスク要因として切断・排除するのではなく、〈社会〉的因果関係のなかで自己と〈他者〉を置きなおすことで、問題を〈社会〉的に解決していくという方向。
→自己と〈他者〉が位置づく〈社会〉的平面を暫定的に仮構することで、「共感」や「連帯」の資源としていく。